後悔するということは

センター試験の2日目のことだった。定期券を忘れて、改札でうだうだしていたら遅刻してしまった。
エレベーターを使って教室に向かう。なんだかすげぇ綺麗な会場だった。

 

準備をしていると、持ってきた筆箱は沢山の付箋だらけでぐちゃぐちゃだった。直す暇もなかったので、そのままにしていた。準備をしているとき、なにかを書いた一枚の四角い付箋が床に落ちた。

 

試験を受けていたら試験監督(私の高校の学年主任だった。男。)が厭味ったらしく、
「あれえ〜」
と声をかけてきてその付箋を拾い上げた。
机の上に置いていた筆箱も小さい付箋でいっぱいだったから、もう一人の試験監督(二年団の学年主任だった。女。)も私の机の周りにやってきた。
「こういうことしちゃあねえ」
「どうする、規約違反だよ」
「どうにかしてあげたいけど、ねえ」
二人で詰め寄る。言い方が気持ち悪い。周りの受験生もざわつき始める。弁明は幾らかしたけど、その度ケチをつけられるので黙るしかなかった。

 

黙りこくる私に
「黙っててどうなるの、どうせどうにかお情けで何とかしてもらおうとか思ってるんでしょう。でもねえ、見つかったものは仕方ないしもうどうにもできないよねえ。センター試験でこんな不正行為するなんて人生終わりよ。どうするの。」
と、女の方が言う。

どうしたらいいのかわからなかった。とりあえずこの状況を終わらせたくて終わらせたくて堪らなかった。もう詰め寄られて10分は経っている。
どうする?どうしたらいい?どうしたらこいつらから離れられる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうセンター受けるのやめます。この時間以降の試験も受けません。」
咄嗟に口にした言葉だった。

 

 

 

 

 

私が一番得意な、倫理の時間だった。だけど、耐えられなかった。「受けるのやめます」という言葉で嫌味ったらしい先生二人に何か仕返しができた気になった。驚いた先生の顔が一瞬の快感だった。

只、熱いものは冷めやすい。一瞬の快感の後、先生たちの顔はまたニヤニヤした、気持ち悪い顔に戻る。もうこんな奴らの顔なんか見たくもなかった。同じ空間にいたくなかった。

私は、身の回りの付箋と問題用紙を片付けてさっさと教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 


帰る途中に違う教室の前を通ったので、「どうせもう受けれないんだし、ちょっと覗いてから帰るか」という好奇心から入ってみた。
みんな真面目に試験を受けている。私はもうみんなと同じ気持ちで、真摯にセンター試験に臨むことはできないんだなあ。そう思いながらぼーっと眺めていた。受験生という身分なのに俯瞰して今年の試験を見ているのが面白かった。

 

その時、私の近くに座っている受験生が、机の上から四角い付箋を落とした。付箋だ。驚いた。私が落としたのと同じ色だった。
それに気づいたこの教室の試験監督は、さっきの教室のクソみたいなクズと違って、気品があり、でも厳しそうなおじいさんだった。
どうなるのだろう。この子も私のようになるのだろうか。

 

おじいさんは受験生に「この付箋を落としたのは君か。」と優しい声で尋ねる。
頷く受験生。
「そうか、以後注意するように。」そう言って付箋を返した。

 

それだけだった。絶句した。それだけかよ。それだけで済む話なのかよ。おいおいさっきの私のあの時間はなんだったんだ。不条理。理不尽。そんな言葉がふつふつと頭の中に湧いてきた。


気が付けば叫んでいた
「私!私は、さっき、持っていた付箋を落として、見つかったせいで!もう受験できなくなったんです!!!なんで、、、なんで教室ごとに基準が違うんですか!!!!」

 

100人ぐらいだろうか、受験生が振り返る。おじいさんが私の前まで歩いてくる。
そこからはもう、おじいさんとその他の試験監督に私の思いをまくし立てて話すしかできなかった。
なんでですか!!!どうして!をずっと繰り返していた気がする。周りの受験生も驚いてザワザワとし始めた。

 

「ちょっと誰かこのことについて詳しく知ってる奴呼べよ!!!なぁ!!!!」
そうやって怒り狂った言葉を発したその時、あのクソ女(2年団の主任)がこの教室に入ってきた。

おじいさんに向かって
センター試験の規約がつい先程、付箋を所持又は落とした受験者に対しては注意のみを行い、受験を続行させること。と決定されました。したがってこの教室で付箋を落とされた方には引き続き試験を受けさせるようにしてください。」
クソ女はこんなことを言っていた気がする。


私は頭が真っ白になった。何もわからなかった。なぜ今、規約を規定したのか?なぜ?どうして?で頭が一杯だった。

ただ一つ分かったのは、私がさっきまでいた教室での一件があった後に、規約が変更されたのだろうということだった。


気づけば、おじいさんは納得したように元の位置に戻っていっており、ほかの受験生も静かに自分の試験に集中し直していた。
ただただ私は声を出すこともできず立ち尽くした。そんな私にクソ女は向き直って
「付箋を落としたあなたは、許されるでしょうねぇ。」と言った。


ゆるされる?もう一度受験ができるのだろうか?そう思って口を開こうとした刹那
「けれど、あなたは決断した。自分の口で、これ以降の試験は受けないと言ったのよ。もう言ってしまったのよ。わかるわよね。」

 

ああ、嵌められた。そう思った。何に嵌められたのか、なぜ嵌められたのか、そもそも嵌められたのかすらよくわからないけど、もう二度と戻れないのだ。

 

私は教室をあとにした。建物を出て、控え室である食堂に向かった。そこには私が大好きで今まで色んな相談をしてきた先生がいる。優しい先生がいる。先生のところに行こう。先生なら私のこの気持ちをわかってくれる。

 

食堂に着いて経緯を説明すると、
「辛かったな、苦しかったなぁ。」
先生はそう慰めてくれた。ああ、嬉しい、なんとかなるのかも、頬が緩んだ。

 

「でもね、ななちゃんは言ったらいけんことを言ってしまったんよ。受けません、って。あのまま耐えていたら、もっと違った結論が出たんじゃないの?私は申し訳なけどもうあなたの相談も聞きたくないし、責任もとれないわ。早く帰って。」

 

 

ああ、と思った。
この言葉を聞いて、完全に自分は選んではいけない選択をしたのだと、身に染みてわかった気がした。

 

 

流された。
どうせ不正行為でなにか処罰されるのなら、もう受けなければいいんだ。一瞬頭をよぎったその考えに、あのクソみたいな2人の言葉に、雰囲気に。自分の弱さに。

 

流されたのだ。

 

そこからの記憶はもう、なにもない。ただただ後悔と絶望と不安と喪失だけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

そんなところで目が覚めた。
長くて長くて嫌な夢だった。

 

 

夢オチか~~~いって言うツッコミがきそうだけれど。

夢日記をつけると、気が狂うと聞く。夢と現実の区別がつかなくなるとか。2ちゃんで読んだ。なるほど怖い。ま、、、毎日書かなかったらいいんだよね!?!?ね!?!?!?

でも今日の夢はすごいくっきりはっきり覚えていたから気持ち悪い。書く手が止まらないほど鮮明に覚えていた。

 

結局、いい道も悪い道も、自分が選んだ道だということ。
意志がなければ、ぶれて、流されてしまうということ。
一瞬の快楽は一瞬で冷めるということ。
誰も自分の人生の責任は取ってくれないということ。人のせいにはできないということ。


なんか、そういうことを感じさせてくれた夢だった。はぁ、疲れた。
夢は潜在意識の表れと言うけれど、付箋はなんの表れだったのだろう、、、というかなんで付箋だったのだろう、、、、(笑)

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